伝統の技を、今の暮らしへ。和の知恵と風情を紡ぐ家

日本の木造建築が培ってきた技術を受け継ぎながら、現代の暮らしにふさわしい住まいへと昇華させたS様邸。この家を象徴するのが、伝統工法「渡り顎」によって組み上げられた圧巻の5段梁です。構造材を単に壁や天井の中へ隠すのではなく、その力強さや木組みの美しさそのものを空間の魅力として表現しました。ヒバや檜、赤松といった木が持つそれぞれの表情や特性を生かしながら、いぶし銀の屋根や和の意匠を組み合わせることで、どこか懐かしさを感じさせながらも古さを感じさせない佇まいに。伝統をそのまま再現するのではなく、受け継ぐべき知恵や技術を選び取り、現在の生活に合わせて再構成する。職人の技術と設計の工夫によって、「和の家」の新しいあり方をかたちにした住まいです。

case study  結城郡八千代町 S様邸

  • 延床面積 : 約55坪(183.84㎡)。ガレージ、吹抜け等その他工事面積 : 151.54㎡
  • 建築本体工事費の目安 :4,000~4,500万円(2018年竣工時)。
  • 農業を営む家族の家。和の知恵を活かした強く美しく長持ちする家づくり。
  • 伝統工法「渡り顎」でつくる圧巻の5段梁組。
  • 土台はヒバ、柱は檜、梁は赤松、屋根はむくりのいぶし銀。
  • 濡れ縁下地材はヒバを使用、板は屋久島の杉、格子は檜。玄関含め土間部分はコンクリートを研磨した磨き仕上げ。
  • 雨どいを設置せず屋根の美しさをそのまま表現し、下部には雨受けとして割栗で設置。雨だれの風情を楽しむ。
  • 機能性を求める奥様の理想を叶えた家事動線、収納力。

 

設計者からのコメント

この住宅で大切にしたのは、伝統的な木造建築の技術を単なる懐古的なデザインとして取り入れるのではなく、現代の住まいとしてどこまで生かすことができるか、ということでした。なかでも象徴的なのが、「渡り顎」による5段の梁組です。本来、建物を支えるための構造そのものに美しさがある。日本の木造建築が持っていたその考え方を、室内空間の大きな見どころとして表現しています。また、木材についても、それぞれの場所や役割を考えながらヒバ、檜、赤松などを使い分け、素材そのものが持つ質感や力強さを生かしました。屋根や細部には日本建築ならではの意匠を取り入れていますが、目指したのは昔ながらの家をそのまま再現することではありません。昔から受け継がれてきた合理的な知恵や職人の技術と、現在の生活に求められる使いやすさや快適性。その両方を一つの建築として成立させることで、年月を重ねても魅力を失わない住まいをつくりたいと考えました。木の構造美、素材の美しさ、そして職人の仕事。それらを日々の暮らしの中で感じていただける家になったと思います。